【無人島生活:28日目】
『――ウヴァアァァ!』
とある夜だった。
この無人島にゾンビモンスターが棲息しているとは思わなかった。
[ボロ雑巾ゾンビ]
[属性:不死]
[種族:不死]
[詳細]
元船乗りのゾンビ。ボロ雑巾と融合している不死モンスターである。強さは普通のゾンビと変わらないが、物理攻撃の雑巾アタックに注意。
「ラスティさん、このゾンビさん……雑巾を投げてきますぅ~!」
目をぐるぐるさせるスコルは、必死に逃げ惑う。
夜間ということもあり、たいまつを手にして周囲を照らしていた。
という俺も、この状況に頭が真っ白になっていた。
無人島かと思えば、危険なモンスターでいっぱいじゃないか! 聞いてないぞ!
危機的状況だ。
こんな時は『無人島開発スキル』を使うしかない。
――って、まて。
よくよく考えれば、こういう不死モンスターの浄化は“聖女”であるスコルの仕事では!?
と、いってもスコルはあんまり攻撃スキルは持ち合わせていないようだしな。俺ががんばるしかないか。
「無人島開発スキルで――沼生成!」
手のひらを向け、ゾンビの足元に【沼】を作った。
底なし沼だ!
ボロ雑巾ゾンビは、足元をすくわれ――沼に落ちていく! おぉし、上手くいった。完璧じゃないか、俺。
「おぉ、さすがラスティさん!」
「へへーん。最近、ようやくスキルを使いこなせてきたからな」
「すごいです~!」
などと慢心していると、ボロ雑巾が俺の顔面にぶつかってきた。
「ぶふぁぁ!?」
い、痛ぇし、臭ぇ……!
てか、ボロ雑巾で攻撃とか地味に最悪だ!
「大丈夫ですか!?」
「あ、ああ……。あの野郎、よくも」
しかし、ボロ雑巾ゾンビは上半身を飲み込まれていた。さすが俺の沼だな。
とうとうボロ雑巾を投げる気力もなくなったようで、頭まで落ちた。……ふぅ、勝ったな。
「討伐完了ですねっ」
「おう。スコル、ケガはないか?」
「はい、へっちゃらです」
砕けた笑顔を向けるスコル。本当、なんでこんな美少女エルフが漂流してきたのやらな。不思議で仕方ないが、でも、孤独よりは何倍もいい。
俺は一人ではない。
俺の執事アルフレッドや、姿を現さない“天の声・ハヴァマール”。俺に無人島開発スキルの能力をくれた少女の声だ。
そろそろ姿を現してくれてもいいのにな。
いつまでも高みの見物されても、監視されているようで心地が悪い。いつか降りて来てもらうぜ。
「スコル、俺たちの拠点へ帰ろう」
「はいっ」
この無人島にはイノシシだけでなく、いろんなモンスターが棲息しているようだな。
◆
拠点へ戻ると、腰にタオルだけ巻いたアルフレッドの姿があった。どうやら、俺の作った即席露天風呂(一人用)に浸かっていたらしい。
「おかえりなさいませ、ぼっちゃん」
「ただいま、アルフレッド。……その、なんだ。スコルが困ってる」
「これは申し訳ありません。女性を前にこのような姿をさらしてしまうなど……」
申し訳なさそうに、けれど筋肉を見せびらかすアルフレッド。モリモリのマッチョメンである。
「…………」
スコル、耳まで真っ赤だ。
って、アルフレッドのヤツ、いつまで立っているんだか。
「いいから、小屋へ戻れって」
「申し訳ありません。では――」
アルフレッドは丁寧にお辞儀をして、真面目な面構えで小屋へ帰っていく。なにがしたかったんだよ……!?
「あの、ラスティさん」
「ん?」
「い、一緒にお風呂……入りませんか」
「は……はあ!?」
なんか目をぐるぐるさせて乱心のスコル。どういうこった!
冗談だよな?
いや――男の俺としては嬉しすぎるけど、でも危険度マックスだぞそれは。
「だって、わたし……お役に立ててなくて。だから、せめてこの身でラスティさんを癒すしかっ」
「な、なにを言っているんだ! 大丈夫だよ。スコルは十分役立ってる」
「本当にですか?」
「あ、ああ……本当だ」
「本当に本当に?」
「本当に本当に」
……って、前にもこんなヤリトリをしたな。
思い出したら笑えてきた。
「……くすっ」
スコルも同じように思い出したようで、笑顔を浮かべていた。
ああ、俺は彼女の為なら――。
無人島生活はまだまだ続く。